国際バカロレア(IB)の課題論文・内部評価と生成AI|本人の作品であることを確かめる方法
IBでは、課題論文(EE)や内部評価(IA)が生徒本人の作品であることを、教員が作成の過程を知っているかどうかで確かめます。IBは生成AIの利用を禁止していませんが、使った場合はプロンプトと日付まで出典として示すことを求めています。※1 AI検出ツールの結果だけでは、根拠にならないという立場です。
Cognityは、生徒が生成AIと一緒に課題に取り組む過程を記録する、AIの可視化ツールです。日本では2015年から日本語DPが実施されており、課題論文も日本語で書くことができます。※5 この記事では、日本語DPを実施する学校の指導教員とDPコーディネーターに向けて、IBの規定と文部科学省のガイドラインを両立させながら確認を進める方法を紹介します。
IBが指導教員に求める「本人の作品であることの確認」
IBの「学問的誠実性に関する方針」の付録6は、教員が確認欄にチェックするときにIBが期待することとして、次の4点を挙げています(筆者訳)。※1
- 生徒が時間をかけて作品を仕上げていく過程を、教員が見てきたこと
- 生徒が自分の作品について十分に説明できること
- 他者の考えの引用と自分の考えを、生徒が明確に区別していること
- 最終的な作品の水準が、その生徒に期待される水準と合っていること
教員が本人の作品だと確信できない場合、その作品はIBに提出してはならないとされています。※1 一方でIBは、この確認について教員に求めるのは「最善の努力」だとしています。※2
なお、AIに関する付録6を含む日本語版の方針は、IBの公開サイトでは確認できませんでした(2026年10月1日時点)。公開されている日本語版は2021年2月の版で、付録6が追加される前のものです。※6 この記事の引用は英語の原文を訳したもので、出典に原文の該当ページを示しています。
IBの生成AIに関するルール
IBの方針は、生成AIの利用を認めたうえで、AIが作ったものを生徒の作品とはみなさないというものです。付録6の主な内容は次のとおりです。※1
- 利用の禁止はしない:「IBはAIソフトウェアの使用を禁止しない」(筆者訳、p.53)
- 一部でもAIが作ったものは本人の作品ではない:AIが「一部だけ」作った場合も同じ扱い(p.54)
- 出典の明示は2か所:本文中と参考文献の両方に記載し、記載しなければ不正行為(p.54)
- 出典にはプロンプトと日付:そのまま写した場合だけでなく、言い換えた場合も対象(p.55)
IBが2024年に示した「13の事例」の資料は、要点の要約や参考文献の提案など調べ学習の補助は認める一方、研究課題をAIが考えることや、振り返りをAIが書くことは認めていません。AIが書いた振り返りは「捏造」にあたるとしています。※2
2027年の課題論文ガイドでの変更点
2027年に初めて評価を受ける課題論文から、指導教員と生徒の対話の比重が大きくなります。新しいガイドの主な点は次のとおりです。※3
- 振り返りセッションは3回必須:1回20〜30分が目安で、3回目は短い口頭試問(viva voce)
- 振り返りは500語の文章1つ:従来のRPPFに代わるRPF(Reflection and progress form)に記入し、評価規準E(振り返り)はこの文章だけで30点中4点
- 指導教員のコメントは草稿1回のみ:直接の添削はせず、最終版を読んだうえで口頭試問とあわせて本人の作品であることを確認
- AIについての明記:AIで書いた論文を自分のものとして出すことは不誠実であり、AIの資料は出典を示せば参考資料として使えるという立場
IBの日本語の概要資料も、口頭試問の役割の1つ目に「剽窃やその他の不正行為がなかったことを確認する」ことを挙げています。※4
ガイドは、指導教員が生徒1人あたり振り返りセッションを含めて3〜5時間をかけることを推奨しています。※3 文部科学省の委託調査は、一条校のIB教員の課題として「二つのカリキュラムに対応した評価が必要なこと」を挙げています。そのうえで「IB教員には大きな負担がかかっていることが推察される」とまとめています。※7 確認のための記録は、新しい作業として増やすのではなく、すでに行っている指導の中から残すことが大切です。
文部科学省の生成AIガイドラインとの関係
文部科学省の「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」は、IBとほぼ同じ方向の工夫を示しています。※8
| IBの規定 | 文部科学省ガイドライン(Ver.2.0) |
|---|---|
| 本文と参考文献に出典を明示 | 文献やインターネットから引用する場合と「同様の引用ルール」 |
| プロンプトと日付を記録 | 「利用した生成AIサービスの名称、入力したプロンプト、生成AIを用いた日付を明示」 |
| AIとのやりとりを教員向けの付録として提出 | 「生成AIとのやりとりの過程を参考資料として添付」 |
| 口頭試問と振り返りセッションで確認 | 「口頭発表の機会を設ける」など、理解を確かめる活動 |
ただし、文部科学省のガイドラインはいずれも「考えられる」工夫として示したもので、IBのような提出の可否までは定めていません。IBの規定に合わせて記録を残せば、ガイドラインが挙げる工夫もあわせて満たせます。
また、文部科学省IB教育推進コンソーシアムのDP実践資料は、塾などによるIAやEEの添削を「学問的誠実性に完全に反する」としています。添削の事実が明らかになれば「DPは失格」になるとも注意を促しています。※9 外部の手助けも生成AIと同じく、過程の記録があれば見分けやすくなります。
AI検出ツールの位置づけ
AI検出ツールの判定だけでは、本人の作品かどうかの根拠になりません。IBは、検出ツールが「唯一の証拠」になるほど信頼できるようになるには時間がかかるとし、AIとの「軍拡競争」は避けるとしています(筆者訳)。※1 そのうえで、教員がAIの使用を「証明」する必要はなく、疑わしい場合は口頭で確かめることを勧めています。※2
文部科学省も大学向けの通知で、判定ツールの結果を「過信しないことが重要」としています。※10 日本語の文章に対する検出ツールの精度については、公的な研究を確認できませんでした。日本語で書かれた課題論文を、検出ツールの点数で判断するのは避けるべきです。
指導教員が残しておきたい5つの記録
残しておきたい記録は5つで、いずれもIBの指導の流れにすでに含まれているものです。※2 ※3
- 計画と草稿を順番どおりに保管:版の履歴が残るツールなら、その履歴も一緒に
- 生徒のプロンプト:参考文献にプロンプトを記載し、AIとのやりとり全体は教員向けの付録として提出
- 研究者の振り返りの場(RRS):2027年のガイドが強く推奨する個人の記録
- 3回の振り返りセッションの記録:最後の口頭試問が確認の締めくくり
- 草稿1回・書面のフィードバック1回:そのうえで本人の作品であることを確認
生徒に配るAI利用の記録用紙の例です。IBの規定と文部科学省のガイドラインの項目をどちらも入れています。
AI利用の記録
- 使ったAIと日付:(例:ChatGPT、2026年9月14日)
- 入力したプロンプト:参考文献に記載し、やりとり全体は付録として添付
- 成果物への反映のしかた:そのまま利用/要約/修正/参考
- 反映した箇所:本文中に示し、参考文献に記載
- 使わなかったところ:文章の執筆と書き直し、振り返り
Cognityで見える課題論文の過程
生徒はCognityで課題に取り組み、AIチューターのJelloは教員が決めたAIのルールに沿って手助けします。会話と執筆の過程がそのまま記録されるため、IBのいう教員向けの付録を、生徒が別に書き出す必要はありません。
次の生徒は分析の節を書く途中で、報道でよく見る京都の年間観光客数が実際に来た人の数なのかをJelloに尋ねました。Jelloは、この数字が訪問の回数をもとにした推計であることを説明し、どの資料の数字を使うのかを確認するよう促しています。


別の生徒は、Jelloに分析の節をまるごと書くよう頼みました。Jelloは代筆を断って論点の組み立てを一緒に考えようと返し、この依頼は教員にフラグで示されています。この生徒が提出した文章は貼り付けたもので、Cognityが本文に表示します。

Cognityが本人の作品かどうかを判定することはありません。指導教員が口頭試問の前に、教科の先生が内部評価を確認する前に読む記録を残し、判断は先生が行います。IB校でCognityが記録するプロンプトと修正の全履歴、先生側からの過程レビューは、探究型・IB校のためのCognityで詳しくご覧いただけます。
よくある質問
Q1. IBの「学問的誠実性に関する方針」に、AIの付録を含む日本語版はありますか?
公開サイトでは確認できません。2026年10月1日時点でibo.orgから入手できる日本語版は2021年2月の版で、AIの付録6が追加される前のものです。※6 改訂版は国内のIB校が引用しているため、プログラム・リソース・センターで提供されている可能性があります。DPコーディネーターにご確認ください。
Q2. 生徒がAIで誤字や文章を直してもよいですか?
IBの資料の中でも答えが分かれています。「13の事例」の本文は、文法の評価がなければ「おおむね認められる」としていますが、一覧表では「IBの評価では認められない」としています。※2 言語習得の科目では方針が禁止しているため、それ以外の科目は学校のAI方針で決め、課題を始める前に生徒に伝えることが大切です。※1
Q3. 教員がAIの使用を証明する必要はありますか?
ありません。IBは、教員がAIの使用を証明する必要はないとし、確信が持てない作品を確認しない教員の判断を支持するとしています。※2
検出ツールの限界はAI検出ツールで生成AIの使用は見抜ける?に、課題ごとのAIのルールの決め方は課題ごとの生成AIルールにまとめています。
参考資料
- International Baccalaureate(2023)Academic integrity policy, Appendix 6 "Guidance on the use of artificial intelligence tools", pp.53–55(2019年10月発行、2023年3月改訂)
- International Baccalaureate(2024)Evaluating 13 scenarios of artificial intelligence (AI) in student coursework, pp.1–6
- International Baccalaureate(2025)Extended essay guide, first assessment 2027, pp.13–14, 94–106, 112–114(2025年2月発行、2025年8月改訂)
- 国際バカロレア機構(2021)「DPの「コア」:「課題論文(EE)」」科目概要
- 文部科学省IB教育推進コンソーシアム「日本におけるIB教育」 2026年10月1日確認
- 国際バカロレア機構「Resources for schools in Japan」 2026年10月1日確認
- 筑波大学(2026)「国際バカロレアの教育効果等に関する調査研究業務【タイプB】令和6(2024)年度成果報告書」, p.79
- 文部科学省(2024)「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」, p.20
- 文部科学省IB教育推進コンソーシアム(2025)「国際バカロレア教育導入・実践の歩み-国内固有の課題に即して- Diploma Programme(DP)編」, p.23
- 文部科学省 高等教育局(2023)「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて(周知)」
この記事は国際バカロレア機構(International Baccalaureate Organization)とは独立して作成したもので、同機構の承認を受けたものではありません。International Baccalaureate、Baccalauréat International、Bachillerato InternacionalおよびIBは、国際バカロレア機構の登録商標です。
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